出典:Prime video
【オペレーション:マリア】
ロシア 2021年
監督:ヴェラ・ストロジェワ
主演:マリヤ・ルゴヴァヤ アルター・スモリアニノフ イリャ・マラコフ セルゲイ・プスケパリス Yuri Maslak
第二次大戦下の1941年、ナチス・ドイツ軍からの激しい攻撃にさらされるモスクワ。首都陥落を何としても阻止したいスターリンは、大衆の支持を得る霊能者から“チフヴィンの生神女”というイコン(聖像画)をモスクワに運べば持ちこたえるという助言を受ける。ドイツ軍に支配されている町にあるイコンを奪還するべく、NKVD(秘密警察)の女性エージェント・マリアにその任務が課される。マリアは神を信じず、国家の教えが全てと信じる優秀なエージェントだった。マリアを含む7人の特別部隊が編成され、敵支配地に潜入する。教会からイコンを奪うことに成功するものの、ドイツ軍との激しい銃撃戦によって部隊はほぼ全滅してしまう。生き残ったマリアと護衛役の軍曹は、ドイツ軍に追われながら脱出の機会を探っていた。そんな中、2人の前にウラジーミル神父という男が現れ、町を脱出させる代わりにイコンを渡すよう取引を持ちかける。この神父は敵か味方か?ドイツ軍の追跡が激しくなる中、マリアには最大の危機が迫ろうとしていた。
「オペレーション:マリア」は、単なるスパイ・アクションや戦争映画として語るにはあまりにも奥行きのある、静謐かつ哲学的、そしてどこか悲哀に満ちた作品です。ロシアの現代社会、あるいはより普遍的な人間の「魂」の在り方を、冷徹なまでに美しく描き出しています。
まず、この作品が放つ最大の魅力は、その徹底された「静けさ」にあると言えるでしょう。ハリウッド映画に見られるような派手な爆発や、目まぐるしいカット割りは最小限に抑えられています。代わりに、広大な雪原、凍てつく湖、そして時に崩壊した廃墟といった、ロシアならではの荒涼とした風景が、登場人物の心情を雄弁に物語ります。この風景は、彼らの心の中の孤独や、過去の傷を映し出す鏡のようです。カメラはゆっくりと、まるで登場人物の息遣いを追うかのように動きます。この抑制された演出が、観客の想像力を掻き立て、表面的な出来事の裏に潜む、より深いドラマを浮かび上がらせます。
主人公が背負う「オペレーション」という名の任務は、物語の推進力であると同時に、彼が向き合わざるを得ない「自己」との葛藤の象徴でもあります。彼は、冷戦時代から続く国家の論理と、個人の良心との間で引き裂かれています。このテーマは、多くのロシア文学や映画が探求してきた普遍的なものです。しかし、この作品はそれを現代の視点から描き直すことで、新たな息吹を与えています。主人公の行動の一つ一つは、それがどんなに冷徹なものであっても、その背後にある深い人間的な動機、後悔、そしてかすかな希望を感じさせます。

出典:Prime video
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