出典:映画.com
【This is I】
日本 2026年
監督:松本優作
主演:望月春希 木村多江 千原せいじ 吉村界人 MEGUMI 中村中 中村獅童 斎藤工 星田英利 山村紅葉
タレント・はるな愛の実話をもとに、“本当の自分”のあり方を探し求めながら夢を追う主人公の葛藤と、その人生に大きな転機をもたらした医師との出会いを描いたドラマ。はるな愛の自伝「素晴らしき、この人生」と、医師・和田耕治についてのノンフィクション書籍「ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語」を参考に、当時の日本ではタブー視されていた性別適合手術の現実とふたりの強い信頼関係を、時代を彩るヒット曲と軽やかなダンスとともに映し出す。
幼い頃からアイドルを夢見ていたケンジは、成長とともに“自分らしさ”と周囲の視線に悩むようになる。学校でいじめを受け、家族にも相談できずにいたケンジは、両親に内緒で働きはじめたショーパブで、華やかで個性的なメンバーたちと知り合い、「アイ」という名前でステージデビューを果たす。そしてアイは、貴公子のようなダンサー・タクヤと恋に落ちる。一方、過去に患者を救えなかった苦悩を抱える医師・和田は、アイの深い苦悩を知り、性別適合手術の世界に足を踏み入れることを決意する。
『This is I』はるな愛さんの半生と、彼女を支えた実在の医師・和田耕治さんの絆を描いたこの作品は、単なる伝記映画を超えた、非常にパワフルで挑戦的なエンターテインメントに仕上がっています。
まず語らざるを得ないのは、オーディションで抜擢された主演・望月春希さんの存在感です。
まだ18歳という若さでありながら、主人公「ケンジ」が「アイ」へと変わっていく過程での心の揺れ、身体的な葛藤、そして何より「アイドルになりたい」という純粋な渇望を、痛々しいほどリアルに演じきっています。
周囲の無理解や偏見に晒されるシーンで見せる絶望の淵にあるような瞳と、ステージの上でスポットライトを浴びた瞬間に放つ、ダイヤモンドのような輝きの対比。その圧倒的なエネルギーは、観る者の「自分らしくありたい」という本能を激しく揺さぶります。
一方で、斎藤工さん演じる和田医師の描写も、この物語のもう一つの核となっています。
当時の医療界において「性別適合手術」がどれほどタブー視されていたか。その中で、警察の目を潜り抜けながらも、目の前の患者の人生を救おうとする彼の姿には、ヒロイックな華やかさよりも、「静かで、重い使命感」が漂っています。
本作を唯一無二にしているのが、劇中に散りばめられた昭和・平成のヒット曲と、それを用いたミュージカル演出です。
松田聖子さんや中森明菜さん、そして後にあのはるな愛さんの代名詞となる松浦亜弥さんの楽曲まで……。これらの曲は単なるBGMではなく、主人公の「心の叫び」として機能しています。
現実の過酷さと、音楽シーンのきらびやかさが交互に押し寄せる構成は、まさに「笑いながら泣く」ような感覚。はるな愛さんの代名詞である「エアあやや」が、物語の中でどのような文脈を持って現れるのか。その瞬間のカタルシスは、ぜひ映像で体験してほしいポイントです。本作は単に「多様性(LGBTQ+)」という言葉で片付けられるような作品ではありません。
そこにあるのは、「自分という存在を、自分自身で定義する」という凄まじいまでの覚悟です。
2026年の今、社会の寛容さは当時より進んだかもしれません。しかし、「空気を読むこと」や「正解を求められること」への圧力は今もなお形を変えて存在しています。そんな現代において、逆風の中で「This is I(これが私だ)」と叫び続けるアイの姿は、あらゆる視聴者の心に眠る「本当の自分」を肯定してくれるはずです。
観終わった後、不思議と背筋が伸びるような、心地よい疲労感と高揚感に包まれます。
「自分らしく生きる」という言葉が、どれほど重く、そしてどれほど自由なものであるか。この映画はその答えを提示するのではなく、ただ、その「熱」を私たちに手渡してくれます。

出典:映画.com





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